JRAトレーニング・センター取材業務
PRCではさまざまな業務において、騎手や調教師など関係者の声をファンに届けるための取材が行われます。その中心が、美浦・栗東の両JRAトレーニング・センター(以下、トレセン)における取材です。
原則的に馬を中心に人々が動くトレセンでの取材業務には、専門的なノウハウや経験が求められます。ここではPRCが制作し、グリーンチャンネルで放送されている競馬情報番組『トレセンまるごと情報局』の制作チームに密着し、その取材活動の模様を紹介します。
トレセン取材業務のポイントを、2019年の9月に行った『トレセンまるごと情報局』取材のスケジュールに沿って紹介していきます。原則として、トレセンには毎週火曜日の夜に現地に入り、水曜日の早朝から取材を開始します。
トレセンでの取材は、調教時間にあわせて早朝に始まります。重要な調教である「追い切り」を行う馬の多い水曜日は、多くの関係者がトレセンに姿を現す日でもあるため、取材も水曜日に行います。そのためスタッフは前日の火曜日の夜、トレセン近くの宿泊施設に入ります。
責任者であるPRCのディレクターのもと、制作スタッフ(制作会社のディレクター、カメラマン、音声スタッフ、コーディネーター、番組に出演するリポーターの山根千佳さん)が集まり、翌日の取材の打ち合わせを行います。
打ち合わせは、取材スケジュールや注意点の確認が中心です。コーディネーターが取った関係者のアポイントを確認し、何時に、どの場所で、誰に、どのような内容の取材を行うのかを整理します。打ち合わせの最中にも、コーディネーターは電話で関係者に新たなアポイントを取るなど細かな調整を続けており、その場で予定に変更が加えられていきます。
取材リストは、この日に出来上がってきた番組の台本に沿って作られています。取材に関する打ち合わせが終わると、今度はPRCのディレクターと制作会社のディレクターの2人で、出演者の台詞や番組の構成に関する細かなチェックと修正を行います。
宿泊施設を出発して車でトレセンに入ります。季節によって異なりますが、この時期の車での入場は5時までと決められているため、その前に出発します。
調教スタンドに移動し、さっそく2階からスタンド前の広場にやってきた馬の撮影や、番組オープニングの撮影準備を行います。
リポーターによる番組オープニングを撮影します。台本に基づき、栗東トレセンの取材チームとも連絡を取りながら撮影を進めます。
この日、最初のインタビュー収録です。JRA通算500勝を達成した田村康仁調教師に、活躍馬メジャーエンブレムの思い出や、厩舎カラー(赤)にまつわるエピソードなど、リポーターがインタビューを行います。
この週に行われるセントライト記念に出走予定のニシノデイジーについて、リポーターが高木登調教師に意気込みや仕上がりなどを伺います。
美浦トレセンの調教場に新設された新しいウッドチップコース(Dコース)の走り心地について、リポーターが松岡正海騎手に伺います。こちらは「まるごとQ&A」のコーナーで使用する素材となります。
この週に行われるセントライト記念に出走予定のザダルの追い切り(ウッドチップコース)を調教スタンドから撮影します。傍らではリポーターがリポートを行います。
その他のセントライト記念出走予定馬や注目の2歳馬などの撮影は、インタビューの合間の時間を利用して、主にスタンド前にいるところを探して行います。
調教コースの表面を均す「ハローがけ」の間はコースに入れないため、関係者やマスコミも休憩します。取材チームも、この間に調教スタンドで軽食やコーヒーを取ります。
この週に行われるセントライト記念に出走予定のオセアグレイトについて、リポーターが野中悠太郎騎手に、追い切りの感触などを伺います。
前週に行われた紫苑ステークスをパッシングスルーで勝利した黒岩陽一調教師にリポーターがインタビュー。調教スタンドで声をかけて急きょ、取材が実現しました。こうした形は決して珍しくはありません。
ここからは調教スタンドを離れ、厩舎取材に向かいます。まずは藤沢和雄厩舎。前週のセントウルステークスを制したタワーオブロンドン、この週のセントライト記念に出走予定のランフォザローゼス、ローズステークスに出走予定のスイープセレリタスと、3頭の管理馬について、リポーターが藤沢和雄調教師にインタビューを行います。
大竹正博厩舎へ移動して、この週のセントライト記念に出走予定のザダルについて、リポーターが松浦達彦調教助手に仕上がりや成長などを伺います。
予定していた取材をすべて終え、トレセンの外へ。美浦トレセン広報会館の近くに芝生やウッドチップを敷いた静かな木陰のスペースがあるため、そこで番組のエンディングを収録します。また、少しずつ場所を変えて番組内の各コーナーの導入部も収録します。リポーターの台詞は、前夜の台本チェックで修正したものです。
取材と撮影を終え、宿泊施設へ戻り、遅い朝食を取ります。
午後は競馬記者が出演するコーナー「トラックマンが見た」の撮影を行います。またアポイントを取っておき、厩舎で馬の立ち姿の撮影をすることもあります。その後帰京し、制作スタッフは編集作業に入ります。
最後にテロップなどをチェックして編集を完了。番組は23時にオンエアされます。
私はこの業務に携わるようになって2年半ほどですが、それまでトレセンにはほとんど足を踏み入れたことがありませんでした。ずっと映像を扱う業務だったのですが、自分でその映像素材を撮る「取材」というのはこれが初めてでした。
当然、これほど馬を近くで見たこともありませんでしたし、大きな音を立てない、傘は差さないといったトレセン内での振る舞い方もよく知らなくて。ベテランの制作会社スタッフさんたちには教わることばかりでした。
失敗はもちろんあって、取材と撮影の段取りが悪くて、調教師の方を怒らせてしまったこともあります。でも、その後はなんとか信頼していただけるよう頑張って、今では快く取材を受けていただける関係を築けるようになりました。
番組を観ていただくファンの皆様に、いち早く関係者の声を届ける重要な使命を持っていることは常に認識しています。その上で、注目レースの有力馬関係者として騎手や調教師の方にインタビューさせていただいた馬が、実際にそのレースで勝って、次の週に「おめでとうございました」というインタビューをするときは、こちらもすごくうれしいですね。
トレセンで取材をするまでは知らなかったのですが、厩舎によって調教のパターンや内容は本当にいろいろです。それを理解することで、競馬やレースの見方はずいぶん変わりました。インタビューで聞いた話を思い出しますし、苦労話を聞いている馬が勝つと、素直にうれしくなったりします。
カメラマンやコーディネーターはトレセンでの仕事はもう10年、20年という方もいて、いつも助けられています。そういう方たちのように、もっと厩舎や騎手の方たちに信頼されるようになって、いま携わっている『トレセンまるごと情報局』の番組作りを離れても、取材ができるようになっていきたいですね。