JRAホームページ「海外競馬発売サイト」の制作
2016年の凱旋門賞(G1・フランス)からスタートしたJRAの海外競馬発売。PRCではその立ち上げ時から、全ての発売レースに関してJRAホームページにおける発売サイトのコンテンツ制作を請け負っています。
この「海外競馬発売サイト」は、発売に必要なレースや出走馬の情報はもちろん、その国の競馬のルールや騎手、調教師リーディングなどの幅広い情報を掲載することで、JRAからファンへの海外競馬に関する情報提供の中核としての役割を果たしています。
JRAホームページ制作グループリーダー
ページのビュー数を見ると、ドバイや香港のような日本馬の出走頭数が多いイベントでは当然増えているんですが、そうでないレースでも、非常に多くの方々に見ていただいていることがよくわかるんです。単純かもしれませんが、そういう事実を知ると、やりがいを感じます。
業務を行っているのはITの部署(IT事業部)で、もちろんPRCなのでみんな競馬の知識はありますが、全員が海外競馬に詳しくて語学ができるかというと、そういうわけではありません。苦労があるとしたら、そういうところかもしれませんね。
今後の課題は、増える一方の発売レースにどうやって対応していくかだと思います。すでに複数レースのサイトを同時進行で制作する状況は発生しており、その際のスタッフの配置や、現地リポートを依頼するライターやカメラマンの手配に苦労する場面は出てきています。
おそらく2016年の段階では、発売レースがここまで急激に増えるとは、JRAさんも含めて誰も想定していなかったと思います。日本の一握りのトップホースが挑戦する大レースを発売しよう、というくらいの意識だったのが、あっという間に状況が変わってきて。現在では、ディアドラが2019年に海外のレースを転戦(UAE→香港→イギリス)している例などを見ても、馬の移動を把握するだけでたいへんですから。
発売サイト作成業務のポイントを、2019年ドバイワールドカップデー時のスケジュールに沿って紹介していきます。原則として、発売サイトはレースの1週間前に公開。そこからレース後の回顧まで順次、コンテンツを追加していきます。
発売サイトの制作は、JRAによるレースの発売が決定すると正式に委託され、開始されます。ドバイミーティングや香港国際競走のようなレースでは比較的早く決定することが多いですが、日本調教馬の出走が直前まで決定しない場合は、その後のスケジュールも非常にタイトなものとなります。
例えば2018年の夏には、ジェニアルが7月22日にメシドール賞(G3・フランス)を勝利後、8月12日のジャックルマロワ賞(G1・フランス)への出走を表明。そのジャックルマロワ賞の発売が決定したのは、レースの約2週間前でした(ジェニアルはその後、回避)。
発売が決定すると、まずはレース概要、データ分析など、出走馬によらないコンテンツから制作を開始します。あわせて、その後の現地リポートを依頼するライターやカメラマンの手配も行います。
レース1週間前、一部のコンテンツとともにサイトをオープンします。その後は順次、各コンテンツを公開していきます。
サイト公開後のメインコンテンツとなるのが、PRCが派遣した取材者やカメラマンから送られてくる情報をもとにした現地リポートです。レース前の現地リポートは、原則としてレース5日前から前日までの毎日(5日間)、更新されます。
ドバイミーティングや香港国際競走など、複数の発売レースがあるイベントでは、主にグリーンチャンネルからの依頼を受けてPRCからディレクターとビデオカメラマンを派遣し、調教やインタビューの動画を撮影します。撮影した動画は現地または国内で編集し、JRAホームページにも掲載されます。
コンテンツの編集・制作と更新には、現地との迅速かつ密な連絡が欠かせません。アメリカやヨーロッパなど、現地と日本の時差が大きい場合、担当者は時差を考慮したスケジュールを組みます。
私は2019年のドバイワールドカップデーで、グリーンチャンネルから依頼を受けて調教撮影や関係者のインタビュー撮影のディレクターとして現地へ赴き、取材を行いました。行くことが決まったのは1月末でしたが、私はパスポートの期限が切れていたので、まずはそこからでした。2月半ばには取材申請もしていたのですが、結局、主催者から取材OKの返事が来たのは出発の4日前でした(笑)。海外での取材は、そういうところも気が抜けませんね。
宿泊は、主催者がプレス向けに4泊分の宿泊を提供してくれるのですが、万が一のためにキャンセル可能なホテルを全泊分押さえておきました。また、大きなビデオカメラは持ち込めないので現地のものを手配したり、動画を日本へ送信するのに必要な競馬場内のWi-Fiが不安定だったときのために現地のSIMカードを手配したりと、事前の準備には万全を期しました。ですが当日のプレスルームにはなぜか私の席がなくて(笑)。着いてからの調整がたいへんでした。
取材は、非常にうまくいきました。ドバイは天候の変動が激しく、日本馬が追い切った水曜は良い天気だったのですが、木曜には雨が降りました。また金曜は朝5時の日本馬の調教時には問題なかったのですが、その後はどんどん霧が濃くなって、やがてまったく見えなくなってしまいました。運があったと思います。
こうした海外取材では、必ずしも日本馬の活躍に立ち会えるとは限らないのですが、私にとって初めての海外出張でアーモンドアイのドバイターフ(G1)優勝などを見ることができたのは、とてもラッキーでした。国枝栄調教師には毎朝、取材させていただきましたし、共同会見や枠番抽選会など過程を全て見届けて、その様子を日本に映像として送ることができました。
国枝調教師以外にも、ヴィブロスやシュヴァルグランのオーナーである佐々木主浩さんと交流を持つなど、貴重な経験もできました。日本の取材陣が多いと色々と助け合う場面があり、“チーム・ジャパン”としてまとまった雰囲気を感じることができたのも良い経験です。
海外は、いい意味でも悪い意味でも日本とやり方が違う面がありますが、日本よりも競馬の歴史が長い国が多く、そういった文化の深さを感じる場面がいくつもありました。海外取材を通じて海外の競馬に触れるというのは、視野を広げるという意味で、取材者にとってプラスになるのではないかと思います。
検討に必要な情報を提供するため、出走馬情報は原則、全馬について作成します。枠順確定後では作成も公開も遅くなってしまうので、事前に出否の情報を集めながら作成していくことになります。
ドバイミーティングや香港国際競走では、主催者が各レースの出走予定馬を把握し、変更があれば随時、情報を発信するため、比較的余裕をもって出走馬情報を作成できます。しかし、そうではないレースもあります。
例えばオーストラリアでは、レース体系の考え方が日本とは大きく異なり、大レースでも中3日などのローテーションで出走する馬が珍しくありません。また、天候などを見てレース前日にスクラッチ(取消)するケースもあるので、各馬の最新の動向に注意を払いながら情報を作成します。
海外競馬発売レースはグリーンチャンネルで生放送を行うため、JRAホームページに掲載するレース映像はグリーンチャンネルの放送映像を使用します。また不測の事態に備えて、現地の映像もバックアップとして収録しています。
レースが終わると、できるだけ早くレース映像を掲載します。現地のカメラマンから送られてきた写真は、発売サイトの結果ページ以外にもJRAホームページやSNSなどの速報で使用されます。
2019年のケンタッキーダービーでは、レース後の申し立てにより1位入線馬が降着となり、勝ち馬が変わるというレアケースが発生。すでに最初の写真を送っていた現地のカメラマンは、急いで写真をセレクトし直して再度、送信することとなりました。
JRAとの映像や写真のやりとりは、普段からJRAの映像を配信しているPRCのノウハウやスキームが存分に生かされたものといえます。
先日、オーストラリアのクイーンエリザベスS(G1)でウィンクスの2着に入ったクルーガーの活躍が、海外競馬に出走する日本馬の一つの転機になるような気がしています。ケンタッキーダービー、ベルモントS(共にG1・アメリカ)でのマスターフェンサーの好走もそうですし、GIホースでなくても世界的な名馬の出走する大レースであそこまでやれるなら、自分の馬も、と意欲を膨らませる関係者が増えても不思議はないですからね。
我々の仕事は、もちろん投票の際の参考になる情報を提供するわけですから、売り上げを増やすことは目標の一つです。ただそれ以外にも、発売レースを通じてファンの皆様に海外競馬に関する知識を伝えて、興味を持っていただけている実感はあります。今後も業務を通じて、そういう役割を果たしていけたらいいですね。