東京競馬場、そして全国で流れるJRAオフィシャル映像の制作
競馬場のモニターで放映される映像は、各開催競馬場の中継車で作られています。カメラが撮影した映像はすべてこの中継車に集められ、それらの映像を切り替えながら、馬名や騎手などの文字情報を乗せたり、変更情報を発表したり、分刻みのタイムシートに従ってCM映像を流すなどして、1本のライブ映像を作ります。そして、それが競馬場内のモニターで放映されます。
日本ダービーやジャパンカップ、有馬記念などの大レースでは、あらかじめ用意した映像効果と実際のライブ映像を重ねる「バーチャル映像」も使用されます。
ターフビジョンの映像は画面サイズが特殊で、放映内容も場内のモニターとは異なるため、中継車ではなく競馬場の「大型(ターフビジョン)映像装置操作室」で作られます。
こうした業務は、開催日の何日も前から準備が行われています。ここでは2018年のジャパンカップの「バーチャル映像」制作の流れを中心に、具体的な業務の内容を紹介していきます。
中継車で制作するライブ映像は、正確には3本あります。
「レース実況・パドック」と書かれた場内モニターで流れる、開催競馬場の映像(東京競馬場であれば東京の映像)が通称「A送」。「全レース実況」と書かれた場内モニターで流れる、全場のパドックやレースの映像が「B送」。そして他の競馬場やウインズ、グリーンチャンネルなどで使用するための映像は「センター送」と呼ばれ、その名の通り場内ではなく、映像センターへと送られます。
「バーチャル映像」制作の流れ
社内で打ち合わせを行い、ジャパンカップでJRAに提案するバーチャル映像の企画や演出を話し合います。まず前年の映像を検証するところから始まり、そこで出た改善点などを踏まえ、新たなアイデアを模索します。企画として面白いかどうか。バーチャル映像として成立するか。さまざまな意見を出し合ってまとめます。
JRAの映像担当職員に、バーチャル映像の企画・演出のプレゼンテーションを行います。ここでも「お客さまのジャパンカップに対する期待感を高める演出であるか」、「インフォメーションとして適切であるか」などをポイントに議論が行われ、最終的な企画を決定します。
企画の決定後、バーチャル演出の作り込みを開始します。
制作したバーチャル演出を、東京競馬場で実際のカメラの映像に乗せるリハーサルをジャパンカップ前々日の金曜日に行います。リハーサルはジャパンカップ当日のタイムシートに従い、第1レースからジャパンカップまで一通り行います。
バーチャル演出はプログラムで動き、カメラマンがそれを見ながらカメラを動かして、「バーチャル」と「実際のカメラの映像」とをうまく重ねることで成立します。そのため、カメラマンはインカムでエンジニアと話をしながら、細かいカメラの動かし方を詰めていきます。こうした調整作業は、当日朝の開門前まで行われます。
バーチャル映像は、あらかじめ制作した映像効果を、実際のカメラの映像に重ねて放映するものです。もっとも一般的なのが、レースの直線で残り距離を「200(メートル)」のように線で表示させるものですね。
初めてバーチャル映像の放映を行ったのは2003年の11月で、現在は日本ダービー、ジャパンカップ、有馬記念、あとは札幌のワールドオールスタージョッキーズで使用しています。2018年に限っては、JBC競走でも行いました。1か月前くらいから準備するものなので、ルーティンというよりは、それぞれが企画からスタートするスペシャルな業務という意識が強いです。
当日に内容を変更するのは難しいので、現役馬に関してあまり突っ込んだものは作りづらいのですが、2017年の有馬記念ではラストランとなるキタサンブラックに寄ったものを何編か作りました。一般レースの発走前に、キタサンブラックの足跡を振り返ったり、ウイニングランでは「おめでとう キタサンブラック」というような文字を重ねたりしました。
クリエイターの方は日々、色々な演出を研究されていて、目新しい企画を提案してくれます。採用はしませんでしたが、芝コースがボコッとへこんで、楽隊が出てきてファンファーレ、というものを見たときにはびっくりしました(笑)。
過去に「攻めた」演出では、ワールドオールスタージョッキーズで、向正面の奥から優勝騎手の上半身が巨人のように登場して、辺りが暗くなって花火が上がるというものをやったことがあります。お祭り的な雰囲気を出せて、楽しいものになったと思います。
これがうまくいったのは、札幌競馬場の向正面の奥が森になっていたことが大きかったと思います。いかにも巨人が出てきそうな雰囲気があって。そのように、競馬場ごとの特徴を生かしたバーチャル映像というのは、やりがいがあります。先日のJBC競走は京都だったので、馬場内の池を使ってみました。
バーチャル映像はあくまでもプラスアルファで、その場の空気を特別にするもの。通常の中継車から発信する映像とは違い、遊び心を取り入れつつ、お客さまに高揚感を持ってレースを楽しんでいただくものです。これからも自分がファンとして競馬を見ていた頃のことを思い出しながら、楽しく、しかし独りよがりにならないように企画を考えていきたいと思います。
バーチャルカメラ以外にも、競馬場にはさまざまなカメラが設置されています。GIレースともなると、その数は約20台。ここでは2018年のジャパンカップを例に、パドックからゴールの瞬間まで、どのカメラがどのような役割を担うのかを紹介していきます。
通称「2カメ」。通常は「1カメ」よりも低いスタンド6階で、レースの最後の直線、ゴール前を撮影します。
そのためゴール板の正面に据えられています。ただし、ジャパンカップ当日はこのカメラの役割を「バーチャルカメラ」が担うため、こちらは「1カメ」と同じ8階へ移動し、主に向正面の馬群全体(レース映像の上部に合成画面で表示する、通称「割り」)を撮影します。
東京競馬場のマルチターフビジョンの特徴は、なんといっても通常のモニター画面(16:9の比率)を横に3面並べた、そのサイズ(高さ11.2メートル、幅66.4メートル)です。3面のマルチターフビジョンは現在、東京と京都にあります。中山や阪神は2面、他は1面のターフビジョンとなっています。
東京競馬場のマルチターフビジョンは、2006年の秋、世界最大級のハイビジョン映像装置ということで新たに設置されたものです。3面をつなげた横長(最大48:9)の映像を映すこともできますし、3面それぞれ別々の映像を映したり、2面+1面にしたりすることもできます。
ターフカメラは32:9の比率、2面のサイズで撮ることを専門とするカメラで、レース中のターフビジョンでは、このカメラの映像がライブで映されています。
じつはこの映像は当社が運営している「JRAレーシングビュアー」のマルチカメラ機能で見ることができるんですよ。こういう二次利用は、PRCならではの強みだなと思います。
10万人を超える観衆が見るターフビジョンを自分が仕切っていると思うと緊張もしますが、大きなマルチ画面で放映したコンテンツでお客さまが盛り上がってくれると、心からうれしくなります。競馬の運営に関わる一員として、力になれたな、と思う瞬間です。
「2018 ジャパンカップ JRAオフィシャル映像」
を見る!
最低限のセットは「1カメ(レース全般)」、「2カメ(ゴール前など)」、「3カメ(馬群全体など)」、「第1パドックカメラ」、「第2パドックカメラ」の、合計5台になります。ローカル開催などはこのセットで行われることもあります。
今年、ジャパンカップの発走直前にターフビジョンで放映したオリジナル映像は、実は納品されたのが当日の朝でした。というのも、その映像の中に、前日の土曜日に撮影した外国馬関係者のバスツアーの様子を入れたからです。
この映像は3面のマルチターフビジョンをぶち抜き(48:9)で使うもので、(レース当日の納品だったため)放映テストはできずにぶっつけ本番になることも覚悟していました。しかし、なんとか開門2分前にテストを終えることができました。これには心底ホッとしました。
こうしたものは、通常金曜日までには完成していて、遅くとも放映前日までにはテストができています。でも今回はどうしてもフレッシュな内容のものをお客さまに見ていただきたくて、このようなスケジュールになりました。無事に放映できたのも、関係各所の協力があったからこそで、心から感謝しています。
今年のジャパンカップのバーチャル映像は、特に準備が大変なものになりました。通常なら少なくとも1か月前から制作を始めるのですが、この秋はジャパンカップの3週前に京都でJBC競走が行われて、そこでもバーチャル映像を使用したからです。
制作と準備を並行して進めることは難しいため、結果的にジャパンカップのバーチャル映像は、非常にタイトなスケジュールで制作しました。何か月も前から作れればいいのでしょうが、出走馬が決まらないと制作に入れない演出もあるので、なかなかそうもいきません。
ただ、当日の放映はとてもうまくいきました。一つだけ心残りがあるとしたら、有馬記念ファン投票の中間発表を、馬を芝コースに立体的に出現させる演出で第6レースの馬場入場後に放映する予定だったのが、全国的に放映することができなかったことです。理由は、そのレースの入場後に放馬があったからでした。
バーチャル映像は事前に準備したものを使い、関係各所と綿密な連携を取って流すものなので、こうした不測の事態への対応は確かに難しい面はあります。だからこそ現場での判断を的確に下して、少しでもスムーズに放映したかったところ。こうした経験を生かして、次はもっと良いものを見ていただけるようにしていきたいですね。
- 当コンテンツの内容は、2018年ジャパンカップ時点でのものです。
- 各カメラの呼称は当社での呼び名で、JRAが公式に認めるものではありません。